- 2020⁄11⁄24(Tue)
- 08:00
MIROTIC XI 4
4
こんなにも最低なひとだったなんて…。
想像以上の酷さ。
受け止めきれずに物に当たってしまった。
しかも、言ってしまった。
二度と僕の前に現れるななんて…。
でも、もしかしたらそのほうがいいのかもしれない。
これ以上一緒にいたら、ホントに嫌いになってしまいそう。
いまでもかなり危うい。
ギリギリのラインでかろうじて踏みとどまってはいるけど。
でも、思うんだ。
これがユノなんだって。
僕と出会うまでのチョン・ユンホはこういう人間だったんだって。
エリックもヘソンも言ってたじゃないか。
最低な人間だったって。
それを知ったつもりになっていた。
現実は想像をはるかに越えていたのに。
僕は、続けていけるのか…?
このひととの関係を。
不安しかない。
もはやムリだと叫びたい。
なのに、言えない。
ベッドの下から向けられるすがるようなまなざしがまるで、捨て犬みたいで。
「…」
とにかく、少し時間をおこう。
冷静になって、もう一度ゆっくり考えよう。
振り切るように背を向けて、頭まですっぽりともぐり込む。
すべてを遮断するようにまぶたをかたく閉じると、かすかに触れるものがあった。
「ゴメン…。ちょっと、頭冷やしてくる。ちゃんと戻ってくるから…」
「…」
「ホント、ゴメン…」
触れていたぬくもりが離れ、足音が遠ざかっていく。
優しいのは変わらないのに、気遣いが足らない。
記憶とはそういうもの。
経験や時間をかけて培ったものまで奪ってしまう。
ユノの多くは、エリックの元で培われたものだったんだろう。
主に潜入捜査だったわけだし、いろいろな人々の中で多くを学んだ。
言わば、いまのユノは子ども同然。
つまりは僕が教えなければならないんだ。
いろいろなことを。
いまさらながらに気づいた。
「できるかな…」
不安しかない。
なにしろいままで当たり前のようにやっていたことが当たり前ではなくなった。
その苛立ちをどれだけ飼い慣らせるか。
普通ならたぶん、できる。
でも、いまの僕にそれが可能なのかと自問してみるも不安しかなかった。
とはいえ、他のひとに任せるのは嫌だから自分でやるしかないんだろうけど…。
「…」
当然のごとく眠気などどこかへ行ってしまった。
のっそりと身体を起こし、ベッドの縁に腰かけるようにしてため息をこぼした。
「ユノ…」
呼び掛けてみても返ってくるのは静寂。
もう、この部屋にはいない。
ホントに戻ってきてくれるのか。
それさえもわからない。
いまのユノにとって僕は煩わしい存在でしかないはず。
自由になったことで、もしかしたら…。
湧いてきた想像を打ち消すようにかぶりを振った。
信じなければ。
誰よりも僕が、ユノを。
これからも一緒に生きていくつもりならば。
でも…もう、手遅れかな?
戻ってきてくれる保証は、ない。
単なる口約束の可能性だってある。
信じたいけれど…。
「大丈夫、ですか…?」
突然聞こえてきた声に顔を上げた。
振り返ればそこに、テミンが佇んでいた。
不安そうな顔で。
「勝手に上がってしまって、すみません」
別人みたい。
かつてはホントに恨んだ。
万が一、あの時母が命を落としていたならおそらく許すことはなかっただろう。
でも、いまはよかったと思える。
判断は正しかったと。
「ユノ、が…?」
「はい。急用があるから、しばらくチャンミンさんを頼むと…」
「…」
その言葉に少しだけ不安が和らいだ。
ユノは、ホントに戻ってきてくれるかもしれないと。
捨てられたわけじゃないんだ、と。
「何か、ありましたか…?」
「…」
「あ…ムリして聞き出そうとかじゃないんです!ただ、心配で…」
「わかってるよ。ありがとう」
ホントはとてもいい子。
ただ、ユノを好きすぎるあまりに暴走してしまっただけ。
とはいえ、大人ならばそれを理性で止めなければならないんだけど。
でも…思うんだ。
あの職場は基本的に子どもみたいなひとが集まっているのかも、って。
ヒーローに憧れた子どもたちが。
失礼かもしれないが。
「ひとつ、聞いてもいい…?」
「なんですか?僕に答えられることなら、なんでも答えます」
「テミンさんはなんでこの職業に?」
聞いてみたかった。
テミンにもそうだけど、エリックたちにも。
僕の知る限り、大変な仕事だ。
ケガと隣り合わせだし、下手したら命さえ落としかねない。
それでもこの仕事を選んだきっかけはなんなのか。
続ける理由はなんなのか。
「えっと…内緒、にしてもらえますか?」
「うん」
「子どもの頃に、助けてもらったんです」
「…?」
首をかしげると、テミンが小さく笑った。
「誘拐されて、売り飛ばされそうになっていたときに」
「!?」
驚きを隠せなかった。
とんでもないことを聞いてしまったと。
聞いてはいけないことだったんじゃないかと。
「ご、ゴメンなさい…っ」
「大丈夫です。もう過去のことですし、未遂でしたから」
「でも…思い出したくないこともあるでしょう…?」
もしも僕なら、話したくない。
記憶から抹消したい。
「だって、その出来事がなかったら僕はこの職業を知らなかった。仲間に会えなかった。だから、僕はこれでよかったと思ってます」
そう思えるようになるまで、どれだけのものを乗り越えてきたんだろう。
どれほどの時間がかかったんだろう。
計り知れない。
温室のような穏やかな場所で育ってきた僕には。
「それに、そこで助けてくれたひとが僕のお父さんになってくれたんです」
「え…?」
「僕、孤児院育ちなんで」
僕の知らない世界が目の前にあった。
いや、違う。
目を背けていた世界だ。
身近にあると知りながらも、僕には縁遠い。
まるで、映画や小説の世界のように。
「実は僕のいた孤児院が人身売買の組織だったらしくて、捜査のため潜入していたエージェントに助けてもらったんです」
「…」
僕の前で笑うテミン。
知らず、駆け寄って抱き締めていた。
「ありがとうございます。こんな僕を抱き締めてくれて…」
お礼を言われることじゃない。
こんなのは単なる自己満足でしかないんだから。
to be continued.
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こんなにも最低なひとだったなんて…。
想像以上の酷さ。
受け止めきれずに物に当たってしまった。
しかも、言ってしまった。
二度と僕の前に現れるななんて…。
でも、もしかしたらそのほうがいいのかもしれない。
これ以上一緒にいたら、ホントに嫌いになってしまいそう。
いまでもかなり危うい。
ギリギリのラインでかろうじて踏みとどまってはいるけど。
でも、思うんだ。
これがユノなんだって。
僕と出会うまでのチョン・ユンホはこういう人間だったんだって。
エリックもヘソンも言ってたじゃないか。
最低な人間だったって。
それを知ったつもりになっていた。
現実は想像をはるかに越えていたのに。
僕は、続けていけるのか…?
このひととの関係を。
不安しかない。
もはやムリだと叫びたい。
なのに、言えない。
ベッドの下から向けられるすがるようなまなざしがまるで、捨て犬みたいで。
「…」
とにかく、少し時間をおこう。
冷静になって、もう一度ゆっくり考えよう。
振り切るように背を向けて、頭まですっぽりともぐり込む。
すべてを遮断するようにまぶたをかたく閉じると、かすかに触れるものがあった。
「ゴメン…。ちょっと、頭冷やしてくる。ちゃんと戻ってくるから…」
「…」
「ホント、ゴメン…」
触れていたぬくもりが離れ、足音が遠ざかっていく。
優しいのは変わらないのに、気遣いが足らない。
記憶とはそういうもの。
経験や時間をかけて培ったものまで奪ってしまう。
ユノの多くは、エリックの元で培われたものだったんだろう。
主に潜入捜査だったわけだし、いろいろな人々の中で多くを学んだ。
言わば、いまのユノは子ども同然。
つまりは僕が教えなければならないんだ。
いろいろなことを。
いまさらながらに気づいた。
「できるかな…」
不安しかない。
なにしろいままで当たり前のようにやっていたことが当たり前ではなくなった。
その苛立ちをどれだけ飼い慣らせるか。
普通ならたぶん、できる。
でも、いまの僕にそれが可能なのかと自問してみるも不安しかなかった。
とはいえ、他のひとに任せるのは嫌だから自分でやるしかないんだろうけど…。
「…」
当然のごとく眠気などどこかへ行ってしまった。
のっそりと身体を起こし、ベッドの縁に腰かけるようにしてため息をこぼした。
「ユノ…」
呼び掛けてみても返ってくるのは静寂。
もう、この部屋にはいない。
ホントに戻ってきてくれるのか。
それさえもわからない。
いまのユノにとって僕は煩わしい存在でしかないはず。
自由になったことで、もしかしたら…。
湧いてきた想像を打ち消すようにかぶりを振った。
信じなければ。
誰よりも僕が、ユノを。
これからも一緒に生きていくつもりならば。
でも…もう、手遅れかな?
戻ってきてくれる保証は、ない。
単なる口約束の可能性だってある。
信じたいけれど…。
「大丈夫、ですか…?」
突然聞こえてきた声に顔を上げた。
振り返ればそこに、テミンが佇んでいた。
不安そうな顔で。
「勝手に上がってしまって、すみません」
別人みたい。
かつてはホントに恨んだ。
万が一、あの時母が命を落としていたならおそらく許すことはなかっただろう。
でも、いまはよかったと思える。
判断は正しかったと。
「ユノ、が…?」
「はい。急用があるから、しばらくチャンミンさんを頼むと…」
「…」
その言葉に少しだけ不安が和らいだ。
ユノは、ホントに戻ってきてくれるかもしれないと。
捨てられたわけじゃないんだ、と。
「何か、ありましたか…?」
「…」
「あ…ムリして聞き出そうとかじゃないんです!ただ、心配で…」
「わかってるよ。ありがとう」
ホントはとてもいい子。
ただ、ユノを好きすぎるあまりに暴走してしまっただけ。
とはいえ、大人ならばそれを理性で止めなければならないんだけど。
でも…思うんだ。
あの職場は基本的に子どもみたいなひとが集まっているのかも、って。
ヒーローに憧れた子どもたちが。
失礼かもしれないが。
「ひとつ、聞いてもいい…?」
「なんですか?僕に答えられることなら、なんでも答えます」
「テミンさんはなんでこの職業に?」
聞いてみたかった。
テミンにもそうだけど、エリックたちにも。
僕の知る限り、大変な仕事だ。
ケガと隣り合わせだし、下手したら命さえ落としかねない。
それでもこの仕事を選んだきっかけはなんなのか。
続ける理由はなんなのか。
「えっと…内緒、にしてもらえますか?」
「うん」
「子どもの頃に、助けてもらったんです」
「…?」
首をかしげると、テミンが小さく笑った。
「誘拐されて、売り飛ばされそうになっていたときに」
「!?」
驚きを隠せなかった。
とんでもないことを聞いてしまったと。
聞いてはいけないことだったんじゃないかと。
「ご、ゴメンなさい…っ」
「大丈夫です。もう過去のことですし、未遂でしたから」
「でも…思い出したくないこともあるでしょう…?」
もしも僕なら、話したくない。
記憶から抹消したい。
「だって、その出来事がなかったら僕はこの職業を知らなかった。仲間に会えなかった。だから、僕はこれでよかったと思ってます」
そう思えるようになるまで、どれだけのものを乗り越えてきたんだろう。
どれほどの時間がかかったんだろう。
計り知れない。
温室のような穏やかな場所で育ってきた僕には。
「それに、そこで助けてくれたひとが僕のお父さんになってくれたんです」
「え…?」
「僕、孤児院育ちなんで」
僕の知らない世界が目の前にあった。
いや、違う。
目を背けていた世界だ。
身近にあると知りながらも、僕には縁遠い。
まるで、映画や小説の世界のように。
「実は僕のいた孤児院が人身売買の組織だったらしくて、捜査のため潜入していたエージェントに助けてもらったんです」
「…」
僕の前で笑うテミン。
知らず、駆け寄って抱き締めていた。
「ありがとうございます。こんな僕を抱き締めてくれて…」
お礼を言われることじゃない。
こんなのは単なる自己満足でしかないんだから。
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